離婚の慰謝料に時効はある?
ある日を境に、それまで請求できたはずの権利がいきなり消えてしまう。それが「消滅時効」です。慰謝料の請求にも時効があり、いったん成立してしまうと相手方はそれを理由に支払いを拒むことが可能になります。時効については法律改正で2020年4月以降、変更された点が多々あります。これらも含めて重要なポイントを解説していきます。
慰謝料の時効は3年間が原則。どこから起算するかも重要
具体例で考えてみます。夫の不倫が原因となって夫婦関係が破綻、とりあえず慰謝料の話を抜きにして協議離婚、しばらく経って気持ちも生活も落ち着いたので慰謝料を請求する。こんなケースで請求が可能なのはいつまででしょうか。民法では慰謝料の請求が可能な期間を原則として3年間と定めています。
では3年間を起算するのはどの時点からでしょうか。この場合、妻にとって、夫の不倫が原因で離婚せざるを得なくなったという事実が明白になった日、つまり離婚の日が時効の起算日となります。原因となった不倫が3年以上前のことでも、婚姻期間中から起算されることはありません。
次に、妻が夫の不倫相手の女性に慰謝料を請求する場合を考えてみます。まず、不倫が3年以上前のことであっても(ただし過去20年以内とします)、不倫があったことと不倫相手の女性が誰であるかの両方を知った日から3年以内であれば請求は可能です。
しかし、その両方を知った日から3年以上経ってしまうと請求は難しくなります。たとえ離婚してから3年以内であったとしても、離婚の日を起算日とすることを認めないのが裁判所の原則的な考え方だからです。もっとも、これには例外が認められる余地もあります。それは不倫相手の女性が夫婦の離婚を画策していたような場合です。そこまでの事実があれば、時効の起算日を離婚の日まで遅らせることができ、そこから3年以内であれば請求が可能となります。
請求できる期間が残り少ないときはどうすればいい?
時効は、起算日から一定の期間が経過してしまえば必ず成立するかというとそうではありません。慰謝料の請求を思い立ったものの、あと少しで消滅時効が成立してしまうというケースでは「完成猶予」と「更新」という二つの制度の利用が考えられます。
ちなみに、従来「停止」や「中断」といわれてきた制度がありますが、民法の改正により2020年4月から表現や内容が変更されています。
「完成猶予」の代表的なものを説明しましょう。たとえば、時効が成立する日が1か月後に迫っていても、慰謝料を請求する旨を内容証明郵便などで相手方に通知すると6か月の猶予期間が与えられ、その間は成立しなくなるというものです。
また、今回の民法改正で新設された「協議の合意」という方法もあります。たとえば、書面や電子メールなどで「慰謝料について協議しませんか」「協議することには応じます」といったやり取りがあれば「協議の合意」があったとされ、そこから1年間は成立しなくなります。
ただし、これらの方法は、あくまでも成立が一定の期間猶予されているだけです。その間に慰謝料が支払われなかった場合には、調停を申し立てることや、訴訟を提起することで「更新」つまり時効が進んだ期間をゼロにリセットする方法をとる必要があります。
調停の申立てはそれほど難しくありませんが、調停が成立しなかった場合は6か月以内(従来は1か月以内でした)に訴訟を提起することが必要です。調停は自分自身で申し立てできても、訴訟の提起は弁護士に依頼する人が多いので、弁護士を探す方法や時期などをよく考えておくとよいでしょう。
ほかにも注意すべき点がいろいろ
慰謝料請求の時効を更新する方法として、調停を申し立てる方法を説明しましたが、その場合の注意点として、裁判所の管轄の問題に触れておきます。たとえば、もともと東京に居住していた夫婦のうち、妻が別居して大阪へ、夫はそのまま東京にという場合で、妻の方から離婚調停を起こすとしたらどこの裁判所になるでしょう。
この場合、夫の住所地を管轄する東京家庭裁判所(または東京家裁の支部)に申し立てる必要があります。もし、妻が弁護士を依頼するならば、弁護士の交通費などの点で、東京に事務所を構える弁護士を探した方がよさそうです。
さて、ここまで慰謝料の時効に関連する説明をしてきましたが、慰謝料とはっきり区別しなければならないものに財産分与があります。結婚していた間に夫婦で築き上げた財産をどう分けるかという問題です。財産分与は離婚の際に取り決めておくことが多いでしょうが、もし話し合いがつかず先送りしてしまった場合、離婚から2年間で請求できなくなってしまいます。
しかもこの2年間については、これまで述べてきた時効の扱いとは異なり、更新も完成猶予も認められない期間とされているのでとくに注意が必要です。注意点をあと一つ挙げておきます。離婚の慰謝料に関する事実の経過や請求の手続きが、民法改正の時期である2020年4月をまたぐような場合に、新旧どちらの法律が適用されるかという問題もあります。
慰謝料請求権が発生した時期が2020年4月より前なら旧法が適用され、以後なら新法が適用されるというのが原則ですが、例外もあります。これは難しい問題なので弁護士に相談するとよいでしょう。
時間の経過が生み出す法律の壁が時効です。この壁に阻まれて泣く人もいれば、守られて安堵する人もいます。どちら側に立つことになるかを知るには正確な法律知識が必要です。「法は権利の上に眠る者を保護せず」という言葉で時効の由来が説明されることがあります。法は権利を正しく守ろうとする者を保護します。東京には依頼者の正当な権利を守ろうとする弁護士が大勢います。